いなくなれ、群青

  • 『いなくなれ、群青』

  • 河野裕
  • 新潮文庫
  • 637円(税込)
  • 2014年9月刊
  • この島から出るには、なくしたものを見つけなければいけない。七草は2年ぶりに真辺由宇と再会する。この物語はどうしようもなく、彼が彼女に出会ったその時から始まる。

出会いから始まる物語

推薦文No.1-4
中央大学 文学会

 あなたは、理想主義者ですか? それとも悲観主義者ですか? なにかを得るためにはなにかを捨てなければならない、とあなたは思いますか? そんな質問をしたならば、真逆の答えを選んでしまう純粋な少年と少女がこの物語の主人公だ。この物語、『いなくなれ、群青』はそんなどうしようもなく正反対な二人が出会った時に始まる物語だ。悲観主義者の七草と理想主義者の真辺由宇。二人が「階段島」の謎に迫る時、残酷な現実が突きつけられる。そして、真辺由宇はこう言うのだ。
 「どうしても許せないことがあるの。」
 物語の仔細は、あえて語らない。それは、あなたにとっての「出会い」を奪ってしまわないためだ。ここでは、この『いなくなれ、群青』にまつわるたくさんの奇跡的な出会いについて話そう。
 私がこの作品に出会うきっかけを与えてくれたのは、この本の装丁の美しさであったと言っても過言ではない。そう、いわゆる「ジャケ買い」である。カバーイラストを担当しているのは、最近「ビブリア古書堂」シリーズなどで活躍している越島はぐ。彼女が描く切なげな雰囲気を帯びている真辺由宇と、群青色の朝焼けの風景が人々の視線を釘付けにする。このイラストを目にしたあなたは、きっと手に取ってしまわずにはいられないだろう。そして、この装丁をしげしげと眺めた人は気付くのだ。この本は美しいと。カバーデザインは、少女漫画などを主に手がけている川谷デザインが担当している。タイトルのフォント、帯、その随所に細かい意匠が施され、イラストが持つ切なげな雰囲気と美しさをこれ以上ないものに仕上げている。
 しかし、本は内容あってのものだ。いくら装丁が美しく作られていても、内容で人を引きつけられなければたちまち離れてしまう。だが、安心してほしい。この物語は、面白い。地図にも書かれていない、外に出ることもできない島、「階段島」と「魔女」と呼ばれる謎の管理者。真辺が島を訪れたのと同時期に起こる連続落書き事件。これらの謎を描くのは、「サクラダリセット」シリーズで脚光を浴びた河野裕。彼が持つ透明感ある文体と論理的なプロットは、読む者を楽しませ、物語に引き込み、そして離さない。物語を読み終える頃には、すっかり彼の文体やキャラクターに惚れ込んでしまうことは間違いない。このことに少しでも疑いを抱く者がいれば、ぜひ本書を開いてみてほしい。後悔することは絶対にないはずだ。
 その証拠にこの本は、評価され続けている。読書メーター各種ランク1位に輝き、「ダ・ヴィンチBook of year」にランク入りするなど、多くの人に読まれ、評価されているのだ。
 新潮文庫が創刊から100年経ち、その間の知識と経験から導き出された一つの形、それが「新潮文庫nex」だ。そんな「新潮文庫nex」だからこそ、物語、装丁、イラストの全てが見事なまでに完成された一冊を作り上げることに成功しているのである。これら全ての「出会い」が一つとして欠けることなく、積み重なって初めて、『いなくなれ、群青』は世に出ることが出来たのだ。そして、2014年は「新潮文庫nex」の創刊の年でもあり、「階段島」シリーズの一作目である『いなくなれ、群青』が奇跡的な出会いを経て、世に出た年でもある。『いなくなれ、群青』こそ、「この一年に最も輝いていた」作品にふさわしいと思う。
 もう一度言う。この物語は悲観主義者の七草と理想主義者の真辺由宇が出会った時に始まる物語だ。あなたもこの本を開き、今年一番の輝きに出会ってほしい。だが、忘れないでほしい。『いなくなれ、群青』はいつまでも光り輝く作品でもあるということを。
 さぁ、今度はあなたが『いなくなれ、群青』と出会い、物語を始める番だ。

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