死んでしまう系のぼくらに

  • 『死んでしまう系のぼくらに』

  • 最果タヒ
  • リトルモア
  • 1,296円(税込)
  • 2014年8月刊
  • 「死者は星になる。だから、きみが死んだ時ほど、夜空は美しいのだろうし、ぼくは、それを少しだけ、期待している。」日常の中の「死」。その意味を愛おしく掬いとった詩集。

嘘で生きてゆく

推薦文No.7-1
立教大学 文芸批評研究会

 「土曜はしんだふりの練習をして、花畑を何重にもつみかさねた実験場で、ゆっくりとしずんでいきたい。うすくらがりのなかでみる花束が想像以上にきれいでなくて、美人のともだちのかおが、暗闇ではほとんど美しくなくて、けっきょくきれいだったのは光だけだったんだと思った。言い残したこともないのに、深海ではいきものが口をぱくぱくとさせて、泣いているね。わたしはきみたちのきもちを知っているよ。(夢やうつつ)」

 ――カーソルがずっと点滅しているのを見ると、さっきの言葉がぐさぐさと僕を抉ってきた感覚が甦ってくる。そして、いつのまにか眠ってしまうし、死んでしまうのかもしれない。

 私には分からないことが多い。
 例えば、インターネットにたくさんの嘘が呟かれること。その嘘を、嘘と言い切る自分が嫌いで、また死にたくなっていること。死にたいって言ってる君が苦しんでいるのは、鍵をなくした南京錠を、必死に手でこじ開けようとしているからだって、まだ気づけていないこと。

 そうしてみんな分からなくなって、私をひとりぼっちにする。ひとりぼっちに言葉はいらない。だって全ての言葉が、全ての感情が、手を触れたとたん、脆く崩れ去ってしまうのだから。
 なのに、私が触れたこの嘘のようなかけらは刃物のように私の手を傷つけた。痛いって初めて言葉にできる。何もなかったふりもできるのかもしれないけど、おばけを見たいって思うときのように、刃物をゆっくり握っていく。痛いってことがこんなにも私をきらきらさせてくれるなんて知らなかったから、もっとぎゅっと握ってみる。

 じゃあこうしよう、その刃物が、その嘘のように思えてならないかけらが、私を新しくしてくれたこの夥しい血が、言葉が、ひとつの本だったとしたら。いともかんたんに君を輝かせてあげられることが、もし仮にできたらどうかな。すぐに死にたいっていう君を殺めてあげられたら、それはしあわせなことなんじゃないかな。

 生きている人を殺すのは生きている言葉でしょ?
 なんて、誰もがそう口にするけど、全部贋物でしかない。つくられている言葉とか、嘘のフリをしている言葉は私に触れることはできないの。でも残念だけど、私もほんとうはそうだと思っている。ただ、それは人が朽ちるためのものじゃないんだ。また生まれ変わるための、君が新しくなるための。

 だからこの嘘みたいなかけらのひとつひとつに躰をゆだねてみてほしい。それはとてもみるにたえない代物だと思うのかもしれない。けれど、ゆっくりと君の躰を、ふたつあるうちのひとつの心臓を、貫いてくれる。快楽と呼べるのかもしれない。だとすれば、穢れた愛では満ちることのない快楽。

 きっと私が知らなかっただけだったの。嘘がこんなに輝けることを。たぶん君もまだ知らない。だから一生懸命苦しんでいるんだと思う。だから、その、南京錠をでたらめに開けようとするのをやめて。
 きっとこれが鍵になるとおもうから。

 ......そして。
 こんな風になってしまった僕を、笑ってほしい。僕がひとの言葉にこんなにも影響されやすかったなんて、全く思わなかったのだ。気が付いたら、ありもしない嘘を僕が書き上げていたなんて、全く思うはずがなかったのだ。

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