世界から猫が消えたなら

  • 『世界から猫が消えたなら』

  • 川村元気
  • 小学館文庫
  • 670円(税込)
  • 2014年9月刊
  • もしも世界から何かを消す代わりに、一日だけの命を得られるなら、何を犠牲にするだろう。余命わずかの僕は悪魔と取引をする。そんな僕と猫と悪魔の、最後の7日間の物語。

失って気付く存在意義

推薦文No.9-1
明治学院大学 文芸部

 世界から○○が消えたなら――学校が消えたなら、この課題が消えたなら、嫌いな人が消えたなら。考えたことは誰でも一度はあるだろう。この作品の目次は「世界から○○が消えたなら」という文でほぼ統一されており、もしも、小説の世界ではなく自分の存在している現実で消えたならと想像がふくらむ。
 「世界から猫が消えたなら」というタイトルから推測できるように、「失って気付く」ということが、話の中心になっている。冒頭で余命宣告された主人公は、自分そっくりの悪魔にある契約をもちかけられる。それは、「何か一つこの世界から消す代わりに、寿命を一日延ばす」というなんとも単純で悪魔らしい契約だ。彼は、その契約を受け入れ、毎日世界にある何か一つを消すかわりに生き延びる。それは、日常に寄り添うものであったり、大切な思い出にかかわるものであったりする。色々なものと引き換えに生きていく日々の中で彼は寿命の代わりに消えたものたちの役割、消えたことにより起こる世界の変化に気付いていくのである。
 この作品を読んで、一番考えさせられることは、「世界から自分が消えたなら」ではないだろうか。主人公は病気によって世界から消えようとしている。もし病気で死ぬのが自分自身であったら、その時いったい何を考えるだろうか。過去の楽しかった思い出を振り返り寂しくなるのか、今までの人生を思い出して絶望するのか、それとも悔いはないと思うのか。それはそのときにならないと分からないが、もしかしたら一番考えることは自分自身の存在意義なのかもしれない。
 事故、自殺、殺人など人が消える理由はたくさんある。もし世界から自分が消えたら何が起こるか。誰にまたは何に影響を及ぼすか。自分自身にはどのような役割があるのか。生きる意味とは。この作品は「世界から○○が消えたら」と想像して楽しむことも出来るし、「世界から自分が消えたら」という視点から自分自身の存在意義をより深く考えることが出来るのである。

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