ソロモンの偽証(1~6)

  • 『ソロモンの偽証(1~6)』

  • 宮部みゆき
  • 新潮文庫
  • 810~907円(税込)
  • 2014年9月~刊
  • 終業式の朝、中学校の裏庭で不登校だった少年が死体となって発見された。ひとつの事件の混乱から人々の不安や悪意が広がってゆく。複数の視点から描かれるミステリー。

最優秀推薦文

わたしたちは社会を知らない

推薦文No.10-1
国際基督教大学ICU ペン(先)クラブ

 この物語に、大学生は一人だけ。残りは子どもと大人である。
 宮部みゆきさんといえば、今さらオススメされなくとも、十分に著名で実力ある小説家だ。それでも、大学生に読んでもらいたい本を考えたとき、本書を挙げずにはいられない。なぜなら、わたしたち大学生が、子どもでも大人でもなく、またそのどちらでもあるからである。
 この物語では、中学生たちが、自分たちの手で裁判を開き真実をつきとめようと奮闘する。その情熱や、クラス内での生々しい格差、そして柏木卓也が死んだ理由。どれもが中学時代に特有の、切実な感情に起因している。
 しかし思うに、わたしたちはその時期を過ぎてからでないと、それらがなんだったのか、きちんと知ることはできない。
 この物語には、実に様々なタイプの生徒が登場する。わたしたちはその誰もを、実在の人物のようにリアルに感じとることができるはずだ。そして、その誰かの中に、中学生あるいは高校生だった自分を見つけることになる。そこであらためて、中高生だった自分について、冷静にその位置づけを知ることができるのだと思う。
 一方、大人たちも実に多種多様だ。受験生の未来を考えて裁判をやめさせようとする先生、やんちゃな息子に憔悴する母親、やたら事態をひっかき回す記者。しかし、全員が中学生の敵というわけではない。粋な大人たちは、自分の生活や仕事を大切にしながらも、少しずつ子どもたちを手助けする。必ずしも子どもたちにとって都合がいいだけの人物ではない、この助け方もリアルだ。できることなら、自分もこんな大人たちの一人になりたいと思わせられる。
 そう、つまり、この物語には、大学生が今まで来た道と、これから行く道とが、実に深く鮮明に、およそどの学生も共感できる程度に幅広く、描かれているのである。
 さればこそ、今までの自分の立ち位置や、これからの社会でどのような位置にいたいかを考えさせられる。社会に出ることをひかえた大学生の自分には、それらを考えることを余儀なくされるだろう。
 自分が何者なのか、どんな希望をもってどんな大人になりたいのか。本書はそれを考えるきっかけになるとともに、社会の姿というものを優しく見せてくれるのだ。
 ところで、この物語に登場する唯一の大学生は、どんな人物だっただろうか。
 柏木卓也の兄、柏木宏之。彼はまさしく、自らのアイデンティティに惑っている。弟に人生を奪われ、その影に未だに引きずられているのだ。自分の反省について、部分的で主観的な捉え方しかできていないようにも見える。
 そんな彼には、『ソロモンの偽証』を読むことを勧めたい。きっと、自分の二十年間を客観的に見ることができるだろう。その上で、大人になる希望だって見つけられるかもしれない。
 そう考えるわたし自身も、数年後に読み返してはじめて、柏木宏之の苦しみが、あるいは大学生としての自分の悩みが、真にどのようなものであったかを知ることができるのだろうと思う。
 その頃にはきっと、わたしたちは大人になっているだろう。

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