小さな異邦人

  • 『小さな異邦人』

  • 連城三紀彦
  • 文藝春秋
  • 1,728円(税込)
  • 2014年3月刊
  • 8人の子供がいる大家族の元へかかってきた一本の脅迫電話。それがこの奇妙な誘拐事件の始まりだった――。表題作含む全8篇。連城三紀彦が書き遺す、最後の短篇集。

語り継がれる八つの短編

推薦文No.11-1
大東文化大学 國文學研究会

 指飾り、無人駅、蘭が枯れるまで、冬薔薇、風の誤算、白雨、さい涯てまで、小さな異邦人。これらは今は亡き作者の声である。彼の言葉は、霧雨が降る冷たい静けさの中を流れるようにして、読者をその世界へいざなっていく。

 作者は連城三紀彦。ミステリー小説が好きな人は知っているかもしれないが、恥ずかしながら私は本書が初読本になった。そして、私はこの短編集を読み終えてから、その作者である偉大なミステリー作家がもうこの世にいないことを知った。
 本書は雑誌に連載された作品を集めた短編集。表題作である小さな異邦人は、この短編集の最後を飾る作品だ。八人の子供と一人の母のいる家族へ、一本の脅迫電話が掛かってくる。「子供の命は預かった、3千万円を用意しろ」と。しかし、家には家族全員がそろっていた。子供たちの八という数字は、この短編集の作品数と一致している。これはただの偶然なのか、編集者の方が意図的に仕組んだことなのか。実際のことはわからない。ただ一つ確かなのは、八つの短編が救われたことだ。

 流行のサイクルが早い現代で、自己で固定したスタンスのみで突き進んでいくのは、困難極まりない。有象無象はすぐさま新しいものを嗅ぎ付け離れていく。長い時間をかけて作り上げたものが、ほんの僅かな月日の中で、形にも残らず忘れ去られていくのが、今の世の中だ。特に言葉は埋もれやすい。埋もれるだけでなく、短い一言がずっと突き刺さることもあれば、一部の人に意味をはき違えられ、大きな誤解を招くこともある。言葉は繊細で無力で、残酷だ。
 巧みなトリックを演出するための文章や、魅惑的な舞台設定もまた、作者独自の洗練された言葉だ。連城三紀彦の埋もれかけた言葉が、このように本となって世に出ることが、一つの奇跡と言えるのではないだろうか。
 2014年は、作者の本が相次いで出版された。しかも、出版されたどの作品もが逸品である。40年近く前にデビューし、その作風は時代を越えて読者を唸らせる。
 知ってほしい。亡くなった作家の声が今、私たちの元へ届いていることを。そして気づいてほしい。届いた作者の声を語り継ぐのもまた、私たちの使命であることを。
 当然のことだが、本当に良いものは私が選ぶのでなく私たちが選ぶべきだ。一人の読者としてこの作品に、この作者に惚れたのならば、大切に記憶に留め、後世に語り継いでほしい。

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