掟上今日子の備忘録

  • 『掟上今日子の備忘録』

  • 西尾維新
  • 講談社
  • 1,350円(税込)
  • 2014年10月刊
  • 掟上今日子はどんな難事件もほぼ一日で解決し、そして一日で忘れる忘却探偵。その鮮やかな推理と魅力的なキャラクターから目が離せない。西尾維新が放つ新シリーズ第一作。

西尾維新はくだらない作家だ

推薦文No.4-1
成蹊大学 文芸倶楽部

 やたらと言葉遊びをしたがる冗長な文章といい、過剰に記号的な登場人物といい、中学生じみて捻くれた視線と言い、間違っても読書人を気取るような大学生が好んで読む小説を書く人ではない。お薦めしようものなら世人から読書人としての評価が下がることは確実、大声で好きと公言するには勇気がいる類の作家である。
 で、恥を忍んで言わせてもらえば、自分は西尾維新の作品が大好きだ。
 掟上今日子の備忘録は探偵小説だ。今となってはすっかりジュブナイル作家だが、一応仮にも推理小説でデビューした西尾維新の、原点回帰となる作品ともいえる。
 とはいえ、謎解き要素は強くない。作中の登場人物が己の配役やルールに対して自覚的であるあたりからも、推理小説的なフォーマットの上で展開されるキャラクター小説と言った方が近い。「百万円を人質に一億円を要求する」などといった荒唐無稽でフックの効いたお題が一つ置かれ、謎を解く過程で活躍する「忘却探偵」掟上今日子とその周辺を描く。今日子さんは一日しか記憶を保てないため、全ての事件を一日で解決してしまう「最速の探偵」でもある。故にこの物語は短編集である。
 「一眠りするとその日の記憶を全て忘れてしまう、探偵」という設定は一見して現実味が薄く、その一点のみによって立つ今日子さんの人物造形は、西尾維新お得意のひどく記号化されたそれである。しかし話が進むうち、振る舞いの全てが特殊な性質によって縛られている今日子さんが執拗に描かれることで、忘却探偵というキャラクターに肉付けがされていくとともに、「忘却」という記号が一つのテーマとして浮かび上がってくる。
 今日子さんを通してクローズアップされる「忘れること」へのある種の憧れと忌避は、語り手である隠館厄介によって敷衍されて読者に伝えられる。今日子さんに恋する厄介が、彼女と出会うたびに初めましてを繰り返す様は、陳腐だが説得力に富んでいる。厄介を通して描かれる今日子さんは、今日しかないために常に今日に対して真摯であり、昨日も明日もない「今日の今日子さん」に対して、厄介は彼女との関係性をどう築くのかに翻弄され、最終的に一つの結論を得る。それは今日子さんへの回答であると同時に、彼女の象徴する忘却という記号に対する彼なりの答えでもあるといえよう。
 ちなみに隠館厄介でかくしだて、やくすけと読む。名付けのセンスがいちいち小憎たらしいのだ、この作者は。

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