降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第2回 屋台ずき

スロヴァキアの民芸品
とうもろこしの皮で作った人形たち。スロヴァキアの有名な民芸品です。民族衣装を着て、昔の農民の生活をあらわしています。

陶器の屋台
色鮮やかな陶器小物がならぶ屋台。

屋台
焼き栗屋さん。焼きジャガイモやとうもろこしも売っています。

マコベスリジェを食べる
"マコベスリジェ"を食べるわが娘。おろしたジャガイモと小麦粉で作ったパスタにケシの実と粉砂糖をかけたもの。ケシの実はたくさん種が採れることから、富のシンボルとして、スロヴァキアの伝統的クリスマス料理にはかならず登場します。

中欧広場の屋台
中央広場に並んだ屋台。

木のしゃもじ
大きな木のしゃもじ!。何を煮るの?

オオカミの指人形
灰色オオカミの指人形。おこった顔が愛らしい。

12月半ば、クリスマス市場に行ってきました。私は屋台ものが大好き。日本のお祭りでも旅行した東南アジアでも、道端に並んだ屋台をひやかしたり、指先を油でぬらぬらさせ服が汚れるのをすこしだけ気にしながらかぶりつく立ち喰いが大好きなのです。

スロヴァキアの首都・ブラチスラヴァ市の旧市街・中央広場にも毎年12月になると巨大なツリーとともにクリスマス市場が立ちます。この広場はそれほど大きくなく、市場が人々でにぎわい出すと、そこは芋の子を洗うようになってしまうのですが、厚着をした人々にもまれ流され、隙間から覗き込み、お気に入りの 屋台を見つけるのはクリスマス市場の醍醐味でもあります。

橙色の灯に照らされたガラスの天使は黄色いラッパを吹いています。蜜蝋のロウソクはねっとり甘いお菓子のよう。鉄板の上に今にもはじけそうにプリプリ焼か れているソーセージ。みんな魅力的に屋台の中で輝いています。でも油断は禁物。クリスマス市場の雰囲気に酔って買った品物の包みを家に帰ってきてから開い てみて、「あらら、何でこんなものを選んじゃったんだろ......」と呆れたことが何回も。去年買ったカエルのネックレスも、風呂場の鏡に映してみれば、ペカペ カぶら下がる真鍮のカエル(?)のようなものだったのでした。

市場にたむろっている人々がよく手にしている、湯気の立つ紙コップの中身はホットワインです。ワインの中に香辛料やドライフルーツ、砂糖をいれて煮た、 暖かく甘い飲み物。今冬は変に暖かく、屋台をひやかす私には手袋が必要なかったくらいなのですが、いつもならこの時期はもっともっと寒くて、凍りついた石 畳の上ですべらないよう気をつけなければならない程になります。そんな厳寒の空気の中、暗くなった市場に立つ着膨れした人々が、白い湯気の立つ紙コップを 両手に包みながらホットワインをすすっている風景は、まるで古い映画を観ているようです。

市場には焼き栗の屋台も立っていました。10年以上前、冬を初めてスロヴァキアで過ごした時のこと。街の広場に立つ焼き栗の屋台を見つけて私は「やっと 出会えた!」と感激したのです。それは、幼いころ読んだ"小さい魔女"に出てくる焼き栗屋の風景。栗を売っているカゼ引きの男の鼻水がたれて焼けたストー ヴの上でジュッと音をたてる場面は忘れられません。もちろんスロヴァキアの焼き栗屋さんは鼻カゼなんか引いていませんでしたが、私はさっそく一袋焼き栗を 買って、皮をむき、甘い実を頬張りました。古新聞でつくられた袋をとおして栗の丸い形と暖かさが両手に伝わってきました。

この国に住むようになって、私はここで、幼いころ読んだ本の中にあったものを見つけ「やっと出会えた!」と嬉しくなる経験を何度かしました。本を読んだのはもうずっと前のことなのに......。

そういう話もこれから少しずつ書いていけたらいいな......と思ってます。

ミツバチのロウソクミツバチの巣からとれるロウ(蜜蝋)のロウソクもここの名産品です。
木のおもちゃ人気キャラクターの木のおもちゃ。
あまいあまいお菓子あまいあまいお菓子たち。こちらの人は「トルコ蜜飴」とよばれるヌガーが好きで、ここにもいろんな形になって並んでいます。私には甘すぎるのと、歯にくっついて往生するのでパス。
おいしそうな屋台真剣な顔で肉やソーセージを焼いてくれてます。付け合せの酢キャベツやチリピクルスもおいしそう。さぁ、一皿注文して、ホットワインも片手に立ち食いしましょう!。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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