降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第6回 復活祭

スロヴァキアの春
スロヴァキアに春がやってきました。

パン生地
焼かれる前のパン生地。中にはプルーンのジャムや甘いカッテージチーズが入っています。

スポンジ菓子
スポンジ菓子。天板に広げて焼き上げてから切り分けます。カッテージチーズの挟まれたものと、ジャムを挟みラム酒をかけたものと2種類焼きました。

自家製サラミ・ソーセージ
茹でられる自家製サラミ・ソーセージ。

フルトカ作り
フルトカ作り。煮た卵をガーゼに包んでいるところ。

水分を切ります
2時間ほど吊るして水分を切ります。

出来上がったフルトカ
出来上がったフルトカ。卵のチーズみたい。

日曜日の教会
日曜日の朝7時、教会でお清めを待つ人々。4月初めの朝はまだ寒いですが、皆じっと立って待っています。

復活祭の食べ物
お清めを待つ、復活祭の食べ物。供物として教会に捧げられるのではなく、儀式が終わると家に持って帰り、これを朝食にするのです。

司祭
司祭が食べ物に聖水をかけていきます。

お香の煙も
お香の煙もかけます。

復活祭の朝食
復活祭の朝の食卓と子ども達。

スロヴァキアの春は風景が一変します。花や木の芽がいっせいに萌え出すからです。なだらかな丘や山の斜面を薄ぼんやりした白緑色がおおい、その合間に薄 紅色や白の花をこんもりつけた木々がぽつんぽつんと立っています。そんな風景の中を車で走りながら、私たちは4月初めの復活祭休暇にペテルの田舎へ行ってきました。東スロヴァキア、ウクライナとの国境に近いソブランツェという小さな街です。

国民の約70%がキリスト教・カソリックというスロヴァキアでは、キリスト教最大宗教行事の1つである復活祭の前後は、クリスマスと同じように学校が1週間ほどお休みになります。それに合わせ、都会の人々は復活祭を家族や親戚たちと祝うべく故郷へ帰り始め、帰省ラッシュの様子は日 本の盆・正月と全く同じです。

復活祭のことをスロヴァキア語でVelka noc(大きな夜)といいます。イエス・キリストが十字架に掛けられ亡くなった金曜日から復活した日曜日まで、世界が闇につつまれたからでしょう。

復活祭の過ごし方は、同じキリスト教でも国や宗派によっていろいろと違うようです。ペテルの田舎では復活祭の日曜日までの1週間を聖週間といい、正式には7日間を肉、卵、乳製品抜きで過ごします。しかし実際は、家族の健康状態や状況により無理せず過ごしているようです。大切なのは、金曜日の肉抜き。日曜日は早朝教会にて復活祭のごちそうを清めてもらい、それで朝食をとり、午前中教会のミサに行くことです。

そしてスロヴァキアにはもう1日、復活祭の月曜日があります。Sibacka(シバチカ)Plievacka(プリエヴァチカ)という特別行事おこなわれ、どうやらこれはこの地方にキリスト教が布教される以前の民族的な宗教行事のようで、チェコ、ポーランド、ロシアにも同じ習慣があるそうです。
シバチカ・プリエヴァチカについては後ほど書くことにして、まずは復活祭の食べ物をご紹介します。

復活祭の日曜、月曜日は親戚、友人の訪問が続くので、もてなし用の料理やお菓子を多めに用意しておく必要があります。とはいっても豪華な料理を並べるのではありません。お菓子なら日持ちする素朴な焼き菓子が多いです。

金曜日、義母、義姉と私は1日がかりで、何種類か焼き上げました。粗挽きクルミの入ったスポンジの生地に甘く味付けしたカッテージチーズを挟んで焼き、 仕上げは上に溶かしたチョコレートをたっぶり塗ったもの。クッキーに杏のジャムをサンドし粉砂糖をまぶしたもの。おろしリンゴをロールしたパン生地のお菓子、などなど。菓子作りの合間、何度もコーヒーといっしょに焦げぎみのクッキーやスポンジ菓子の断ち落としをつまむので、夕方には甘いものなど見たくもな い気分になってしまいました。

土曜日は、日曜日のごちそうを用意しました。ごちそうといっても、これまた素朴なものばかり。冬の謝肉祭のころ作った自家製ハムやサラミを茹でておくこと。大鍋にたっぷりと湯をわかし、ハムの塊や何本ものサラミを豪快に茹で上げます。

そして大切なのは復活の象徴である卵を食べること。東スロヴァキアの伝統的な復活祭卵料理はHrudka(フルトカ)です。卵1に対し牛乳+水を1の割 合でよく混ぜ(+砂糖、塩少々)、焦げつかないようかき混ぜながら弱火で注意深く暖めていくと、スクランブルエッグの煮込み状態になります。これをガーゼ に流し込み、包んで吊るし2時間ほど水分を切ります。ボール状に固まったらできあがり。油を使わないのであっさりした味ですが、卵と牛乳の栄養がぎっしり 詰まっています。

日曜日の朝、これらをスライスして大皿に並べ、おろした西洋わさびの甘酢漬けやビーツのサラダを添え、白パンといっしょにいただくのが、典型的な復活祭のごちそうです。

土曜日の夜、義姉が大小2つの手提げカゴを出してきました。かわいい小さい方を私に渡して、
「これは七海子用よ。中に卵型チョコレートを入れたら良いと思うの」と。そして「朝7時の教会、奈々も行くでしょ?。あなたは七海子、私は下の子を連れて行くわ」。私「???」。よくよく聞くと、早朝の教会のお清めへのお誘いです。
私はキリスト教信者ではないけれど、人と人との和を一番に重んじてしまう典型的日本人です。断って角が立たないか...。

ペテルの田舎での一番の悩みは、相手の宗教心にどこまで合わせ、どこで相手と自分との間にきっぱり線を引くか、です。ここに子どもが絡んでくると、さら にややこしい。義姉の一番下の男の子・ラスチークは七海子より2つ年上でふたりは大の仲良しです。「七海子が行けば、ラスチークも行くって言うのよ」。という訳で翌朝6時に私と七海子は起され、ベットの中でぐずぐずする七海子を引っ張り出していると「そんなにまでして行くことないよ」と布団の中からペテ ル。彼の親兄姉との関係に対し、私が宗教がらみでいろいろ葛藤しているというのに「なんて呑気な!」。腹が立ってペテルに八つ当たりしながら、私は七海子 を着替えさせ、卵チョコレートの入ったカゴを持たせ、すでに車の中で私たちを待っている義姉夫妻のところまで掛けていきました。後部座席のドアを開けて私 「あれ?...ラスチークはどこ?」。「眠いから行かないんだって」と義姉。

宗教については、変に気を回して中途半端に相手に合わせない方がほんとうは良いのでしょう。しかし相手の信じるものにNOというのは勇気のいることだし、自分の側にも相手を納得させるものが必要です。それは今の私に大いに欠けているもののひとつだと、ここでの暮らしの中で痛感します。

朝食の席、復活祭のごちそうを囲んで家族皆がお祈りを始めました。両手を組んで、うつむき目をつぶって、義母の祈りの言葉に合わせます。私が薄目を開け て周りを見ると、何といつもキリスト教批判をしているペテルの口がお祈りに合わせて動いているではありませんか!。...彼も自分の親子関係でいろいろ葛藤しているのでしょう。
手作りのハム、サラミ、フルトカ、美味しかったです。西洋わさびがつーんと鼻にきました。

今回のエッセイはとても長くなってしまったので、シバチカ・プリエヴァチカについては次回にまわしましょう。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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