降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第8回 たそがれ雑記

ピッピ
ピッピ

ヤコブ
ヤコブ

マチルダ
マチルダ

日照時間がだいぶ長くなってきました。夜9時過ぎまで、外は明るいのです。7時ごろ夕食を終えてアトリエにもどれば、まだ頼れる日の光の中で絵を描き続けることができます。でも気がつくと案外うす暗くなっていて、私はあわてて電灯をつけるのです。。

いきなりまぶしくなったアトリエの隅で、水槽の中のカエル達があたふたと葉っぱの陰にかくれました。ヒキガエル1匹とアマガエル2匹を飼っています。我が家の庭で捕まえたものたち。娘が自分の好きな本の主人公の名前から選んで、ヒキガエルにヤコブ、アマガエルにマチルダ、ピッピと名付けました。

ヤコブは昼夜を問わず獲物の気配を感じると、頭をもたげハンティング体勢に入りますが、マチルダとピッピは昼間はほとんど熟睡していて、はりついて眠っているガラスからはがれ落ちそうになっても気づかないくらいです。うす暗くなってくると、つぶらな瞳を真っ黒に全開して活発に動き始めます。えさはミミズやバッタ。水を入れた小鉢に2匹並んでつかっている姿は、まるで温泉でくつろいでいるめおとのよう。2匹が雄雌なのかどうか知りませんが。

お隣さんの庭から楽しげな笑い声が聞こえてきます。焚き火を囲んで、友人たちと一杯やっているようです。野外で焚き火。これはスロヴァキア人の大好きな娯楽のひとつです。木の枝に刺したソーセージやベーコンの厚切りを焼きながら、お酒を片手におしゃべりするのです。

ソーセージの両端にナイフで切り込みを入れ、真ん中に枝をブスリと刺して火であぶっていると、油がジュウジュウしたたり落ちはじめます。そのソーセージを、枝を握っていないもう片方の手に持った(もしくは、火を囲む石の上に置いた)一切れのパン(どっしりとした田舎パン。スロヴァキア人たちは日本の食パンのことを「あれはパンじゃない、菓子だ」と言います)の上でポンポンとはずませ油を吸わせると、再びソーセージを火の上にかざします。これを気長にくりかえし、中までしっかり焼き込みます。

炎のせいなのかお酒のせいなのか、うす暗がりに浮び上がったこちらの人の朱色の顔をながめていると、私はなんだか自分がこぶとりじいさんになったような気がしてくるのです。焚き火を囲んで酒盛りする鬼たちは、こんな風に見えたのではないでしょうか。

ジュウジュウポンポン、ジュウジュウポンポン......、長い長いたそがれ時、スロヴァキアの鬼たちは、めくれあがって端っこが黒く焦げだしてもなお、ソーセージをしつこく火の上であぶり続けていました。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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