降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第10回 一時帰国

パラボラアンテナ
子ども達の夏休み。義父が60歳の誕生祝いに子ども達からプレゼントされたパラボラアンテナ。3人とも男の子みたいだけど、赤いのが我が娘七海子。

従兄弟と
一番仲良し、2歳年上の従兄弟ラスチークと七海子。Tシャツにつけているのは野草の種。

石の山の巣
石の山を崩して、3人が座れる巣を作った。あぶないことも結構している・・・。

アマガエル君たち
たまみさんちのアマガエル君たち。この写真の中に何匹いるかわかる?。

雨が降って生き生きするアマガエル
雨が降って生き生きしているアマガエル。まるで飾りのついた傘をさしているよう。

出雲大社
一時帰国中、絵本原画展を開いていた出雲市の平田本陣記念館へも行きました。はじめて訪れた出雲大社。八百萬の神さまにますます魅かれてしまいました。

この8月に私は3週間ほど一時帰国しました。夏休み中の七海子の世話はペテルに頼み、ウィーン空港からひとり成田行きの飛行機に乗ったのです。彼は田舎の両親や姉さんと相談し、いろいろ計画を立ててくれたので、七海子は仲良しの従兄弟たちと夏休みを満喫できたようです。スロヴァキア人は親兄弟の関係を大切にする国民です。ペテルの家族も関係はあたたかく、今回のような場合も義母や義姉が「七海子を遊びに来させなよ」と言ってくれるので、ほんとうに有難いです。

今夏の一時帰国の目的は仕事(取材2カ所、講演1回、絵本の打ち合わせ何回か、etc)と実家への顔出しです。
この10年ほど、メールや国際小包便など、便利なシステムが生まれ発展し続けているおかげで、私は日本からはるか遠い国に住んでいても、日本の出版社と仕事を続けてこられました。何と言ってもメールは画期的でした。でも、その便利さを享受すればするほど、もう一方で、生身の人間が顔を合わせて話をすることの大切さも痛感するのです。
だから今回も日本滞在中、なるべくたくさんの人たちと直接話ができるように、あちこち飛び歩いていました。(しかしなにせ生身の故、限界もあり今回お会いできなかった方々失礼しました。次の機会は是非......。)

しかし日本の夏の猛暑には参りました。その前スロヴァキアの猛暑に辟易していた私も、都心JR四ッ谷駅前交差点で信号待ちしながら「スロヴァキアの方がまし......」と唸っていました。両面挟み鉄板焼き状態。体中から汗が噴き出す、手のひらからも!
冷房のきいた列車に乗り込み、冷えた手すりを握ると、ピカピカの棒が私の手のひらの熱気で曇ってしまうのです。この暑さの中通勤している人たちに脱帽です。

列車といえば忘れられない光景がひとつ。
私の日本滞在は3週間弱でした。それも地方へも出掛けていたから、都内にいたのは実質2週間です。また、毎日電車を使っていたわけではありません。なのに、都内で3回も「人身事故のため、しばらく運転を見合わせます」に遭遇してしまいました。
忘れられない光景は、8月2日午前9時前の四ッ谷駅中央線ホーム。私が乗り込んだ下り列車がドアも閉めずホームに停まっていました。だしぬけに「只今、新宿駅下り中央線で人身事故が発生し......」とアナウンスが流れると、車中でじっとしていた乗客たちが一斉に無言ですばやく移動し始めたのです。同駅で動いている総武線下りのホームへ向かって。移動しながら携帯でどこかへ連絡している人は何人もいましたが、乗客間にはまったく会話はありません。中学時代、口癖が「速やかに」の生徒指導熱心な先生がいましたが、その先生もびっくりな、『冷静沈着みごとな集団移動』。それくらい都会で働く人々は、人間が列車に轢かれるコト、に慣れてしまっているのでしょうか?

滞在中に焼きついた印象的な光景がもうひとつ。雨降る林に立つ赤い雨ガッパの少年、です。
今回取材で訪れた岩手で、私は"虫の弁護人"こと澤口たまみさんにお会いしました。たまみさんは、応用昆虫学の専門家で、絵本のテキストやエッセイなども執筆されています。
岩手に着いたその日、私はたまみさんのご自宅の庭で、葉っぱの上で昼寝をしている小さなアマガエルたちをたくさん! 見せてもらいました。スロヴァキアの我が庭では滅多に見られないアマガエルが、草木に咲く花のように、野菜のように、あたりまえにポコポコあちらこちら、昼寝しているのです。あー、七海子やペテルに見せてあげたかった!

翌日は毎年恒例、澤口たまみさん案内の自然観察会でした。しかしあいにく台風が東北方面に接近してきており、朝から小雨が降り続いていました。監察会は中止だろうと思っていると「参加者の状況次第」と言うたまみさんの返事。とにかく集合場所の公園まで行くことになりました。集まった大人の参加者の間に、雨ガッパ姿の少年3人を見つけたたまみさんは「こんな雨の中でも子どもたちが期待してやってきたんだもの。中止にはできないよねぇ」と。「雨の日は虫さんたちカクレンボしているから、みんなはオニになって虫さんたちを探そう!」観察会は出発しました。

はじめ小降りだった雨はだんだん大粒になってきました。観察のじゃまになるからと傘をささない案内役のたまみさんは帽子も服もびしょぬれです。しかし、雨でも参加した男の子たちの熱心なこと。水滴で目につきやすくなったクモの網。葉っぱのうらでじっとしているアブ。びっくりして草の間から飛び出してきたチョウ......。
小学生3~4年生でしょうか、細っこい体に赤い雨ガッパをすっぽり被った少年は、桜の葉々と下草のぬれた緑の中で、じっと地面を見つめていました。

結局、観察会は雨脚が激しくなり予定半分で中止になってしまいました。でも、雨の日の虫を観察する機会なんて滅多にないでしょう。
私は密かに「雨よ、ありがとう」と言っていました。びしょぬれになりながらも体を張って子どもたちの期待を大切にしたたまみさんと、雨なんて何のそのと虫に夢中になっている昆虫少年たちに会わせてもらったことに。
その頃、たまみさんの庭のアマガエルたちも、雨歓迎の大合唱をしていてくれたことでしょう。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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