降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第11回 BIB2007

BIB会場
BIB会場、入り口前のモニュメント。

会場風景
にぎわう会場風景。みんな熱心に観ています。

展示スペース
画家ひとりにつきガラス2枚分の展示スペースがもらえます。

展示
壁にもぎっしりの展示。

フランスの絵本
ガラスケースに入ったフランスの絵本の展示。

原画を見る
ささめやさんの「もしもねこがサーカスに行ったら」の原画を観る七海子。

「ともだちおまじない」の原画
左・出久根さんの「マーシャと白い鳥」と右・はたさんの「はるにあえたよ」に挟まれた、私の「ともだちおまじない」の原画。マットの窓の寸法が原画より小さく、上下左右が切れてしまっていた。ちょっと悲しい...。


ポプラ社からクリスマスの絵本『もめんのろばさん』(わたりむつこ・作 降矢なな・絵)が出版されます。10月12日配本です。

『もめんのろばさん』表紙
『もめんのろばさん』表紙

『もめんのろばさん』
『もめんのろばさん』

『もめんのろばさん』
『もめんのろばさん』

9~10月の2ヶ月間ブラチスラヴァではBIB(ブラチスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ)が開催されています。2年に1回開かれるこのイベントは今年で21回目。世界中から38ヶ国が参加し、合計387作品の絵本とその原画が展示されました。
日本からも国内審査を通過した、以下18名の画家の作品が出品されています。今年は私の「ともだちおまじない」も出品されました。

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あべ弘士、荒井良二、出久根育、降矢なな、
はたこうしろう、ひだきょうこ、飯野和好、
井上洋介、片山健、三浦太郎、及川賢治、
岡田嘉夫、ささめやゆき、杉浦範茂、
スズキコージ、山中桃子、山内ふじ江
(あいうえお順・敬称略)
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BIBについては、私の叔母が編集者であったり、母も絵本を描いていたこともあって、小学生のころから聞き知っていました。 特に、私の好きだった絵本『ABCの本-へそまがりのアルファベット-』で安野光雅さんが"金のりんご賞"を受賞されたニュースは、強く記憶に残っています。そんなわけで、長いこと私はブラチスラヴァを「絵本の街」......、つまり本屋には絵本がたくさん並び、住民も絵本に関心が深い、とイメージしていました。ブラチスラヴァへの留学を決めた理由のひとつもそれでした。
しかしその後、私のそんな甘ったるい思い込みは、ガラガラと崩れることになるのですが、そういう話はまた別の機会に回すことにして、今回はBIB2007についてです。

9月半ば、私はBIB展を観にいってきました。会場となる「文化会館」は、社会主義時代に建てられた3階建ての味気ない建造物で、展覧会場によく使われる割に、展示への配慮が大雑把です。天井は低く、照明もイマイチ、西日対策もお粗末......。日本の立派な美術館と比べると、かなり拍子抜けしてしまいます。数年前の一時帰国中、埼玉県のうらわ美術館で開かれていた"BIB日本巡回展"を観にいったときのこと。フフカフカの絨毯の上でやわらかな照明に浮び上がる展示を見て、「これがブラチスラヴァで観たものと同じ展覧か?!」とショックを受けてしまいました。

入場券売りや会場の監視をしているのは、年金生活者らしい御婦人たちで、カーディガンなど思い思いの服装で、会場の隅に置かれた折りたたみ椅子に腰掛けています。時々、入場者の見ていないスキに、おやつのリンゴを齧っていたりします。一応中年男性の警備員も2人いますが、入り口付近に置かれたテーブルに向かい合い仲よく新聞を読んでいます。実にスロヴァキア的。
しかしながら、2年に一度ブラチスラヴァで世界各地の絵本原画が観られるのは、本当に有難いことです。会場には学校の生徒たちが団体で何組も観にきていました。

原画展の醍醐味は、何といっても画家の筆跡や工夫の跡を直に見られること。画材そのものの質感を楽しむことができることです。原画に近寄って見ると、絵本ではわからなかった貼り絵の紙の厚さや、絵の具の盛り上がりなどにも気がつきます。また原画は絵本よりも色鮮やかなことが多く、絵の奥行きやボリュームもはっきり感じとることができます。なぜなら4色刷りのオフセットでは、どうしても再現できない色調があり、印刷物は原画に比べて平べったい印象になりがちだからです。

BIBで毎回、興味深いのは、その国々の作品傾向や勢いなどを比べながら観られることです。
私にとって今回魅力的だったのはフランスとイランの出品でした。

フランスの出版はいつもセンスがよく手堅いです。今年はそこに何人か版画手法を用いた作家がいました。版画の粗削りさとシックなブックデザインが合わさって、経験豊かな熟練工と怖いもの知らずの若者が握手をしているようです。年月とともに成熟する文化の厚みを感じました。

イランは、それぞれの作家が様々なテクニックに積極的に挑戦している感じで、全体から熱いエネルギーが放出されているようでした。反面、驚いたのは、出品されている絵本がほとんどペーパーバックだったことです。国によってはハードカバーの美しい装丁本を何冊も並べている中、イランの安価な絵本と原画の熱気は印象的でした。私は日本の福音館書店のペーパーバック絵本"月刊こどものとも"から生まれた、数々の名作を思い出してしまいました。

BIBの最近の傾向として残念なのが、年々コンピューター・グラフィックス作品(以下CG)が増えていることです。
CG自体を批判しているのではありません。CGの場合、会場に展示されるものは、プリントアウトされたものになるわけです。原画と称して4色インクで印刷されたものを見せられるのなら、絵本そのものを直接手にとって見るのとどこが違うのだ? と私は腑に落ちないのです。

また、年々CGの技術は進歩しているので、一見素朴な貼り絵が実はCGでしたという、悪く言えば「だまされた!」という気持ちになることも私には多々あるのです。

しかし所詮、絵本は印刷物です。完成品としての絵本が素晴らしければ、途中過程が「貼り絵もどき」や「版画もどき」であろうとも、どこに支障がありましょうか。ははぁー、そのとおりでござります......と全面降伏しつつ、この調子でCGが増えていけば、近い将来私自身は原画展に行かなくなるだろうな、と思っています。

そんな作品群の中で見た私の「ともだちおまじない」は......、「うーん、あるところ私にしか出せない味があって面白い部分もあるけれど、もっともっと冒険してもいいんじゃないか?」と自問自答してしまいました。今あるものを壊して新しいものを生み出すような、守りの姿勢と反対の勇気。何だか歯切れが悪いですね。

まだまだ書きたりないことばかりです。フランス、イラン以外の国にも面白い作品はありました。 あと、私が好きな作品はどれもこれも受賞していませんでした。私は審査員にはなれません(笑)。
BIB2007は来年から日本巡回展を予定しています。どうぞご覧ください。それとも、2年後の秋、BIB2009を観にブラチスラヴァへいらっしゃいませんか?。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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