降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第12回 今日はみんなでキノコ狩り

キノコ狩りのおじさん
林の中で出会ったおじさんと。籠がキノコで山盛りになっています。

キノコの傘を木の枝で
キノコの傘を木の枝で串刺しにしています。これなら籠がなくても大丈夫。

ベドリャ
"ベドリャ"です。

ベドリャの石突き
"ベドリャ"の石突きは繊維がかたく美味しくないので切り落とします。

切り株のキノコ
切り株にもいっぱい小さなキノコが。でもこれは食用ではありません

カラフルな毛虫
こんなキノコも......? 違いました、カラフルな毛虫です。寒くなってきたからそろそろサナギになるのでしょう

仲良しのキノコ
3本仲よしのキノコ。

破裂するキノコ
このキノコは、成熟すると破裂して中につまった胞子をまき散らします。

ドゥバキィ
"ドゥバキィ"。キノコソースにしたり、肉といっしょに煮込んだり......とっても美味しいキノコです。

キノコの「帽子」
スロヴァキア語ではキノコの傘のことを「帽子」と言います。

紅テングダケ
紅テングダケ。林の中でこの赤はとても映えます。物語の中の小人そのものです。

コザック
"コザック"というキノコ。

スホー・フゥリビ
"スホー・フゥリビ"です。キノコの酢漬けにすると美味しいです。

干しキノコ
スロヴァキアでは、スライスして干しキノコにします。

さわやかな秋晴れとほどよい秋雨の日々が交互にやってくる季節になると、夫ペテルは体がうずうずしてくるようです。「キノコ狩りに行こう!」。

私がはじめてキノコ狩りをしたのはペテルの田舎での夏休み。義父母や義姉の家族といっしょに、車で30分ほどのウクライナの国境に近い山へ行きました。山に入って最初に印象深かったのは、落ち葉がつもった地面のふかふかした心地よさでした。浮き沈みする足どりで進む森の中は、なだらかな斜面が上がったり下がったり。気がつくと自分がどの方面からやってきたのか全く分からなくなっていました。山に慣れているペテルの家族といっしょでなかったら私は完全に山で迷子になっていたでしょう。

ペジノクに引っ越してきてからもうすぐ2年になりますが、この近所の山へキノコ狩りに行くのは初めてです。秋晴れの9月末日、隣のアグネシュカさんから聞いた穴場へ出発。車で10分程の山麓のブナ林です。細い道を車で上がっていくと、もう先に車が1台停まっていました。

ペテルがバケツを、七海子と私は籐の籠を、そしてそれぞれがナイフを1本持ちました。キノコは成長が早く採った後も活発に呼吸し水分を放出し続けているので、ビニール袋に入れると蒸れて傷みが早くなります。籠が一番です。ナイフはキノコを痛めず、泥や汚れを落とすのに役立ちます。

林の入り口から続くハイキングコースを少し進み、途中から道をそれて落ち葉をふみふみキノコ探しが始まりました。紅葉はまだ始まったばかり。緑の葉っぱが秋の日差しに輝いています。林の中は案外明るく、葉陰と陽の光が地面の上にまだら模様を描いていました。その表面はほんのり乾いた落ち葉。足で蹴散らすと湿った落ち葉の層があらわれます。

ペテルは足早に林の奥へと歩き出し、その後をピンクの長靴をはいた七海子が走って追いかけていきました

おや? むこうから大きなお腹のおじさんが歩いてきます。手に提げた籠がキノコで山盛りなのが遠目にもよく見えます。その横を歩いている若者は木の枝にキノコの傘を何枚も串刺しにしていました。

大漁の時は誰でも機嫌がいいもの。私たちが「すごい、すごい」と声をあげると、気をよくしたおじさんはキノコがたくさん生えている場所への行き方を丁寧に教えてくれました。と言っても林の中に標識がある訳でもなく、どのあたりで斜め左に曲がるのかは自分の勘に頼るしかありません。それに、おじさん達があんなに収穫した後どれくらいキノコが残っているのかしら......?

そんな思いは全くの杞憂でした。しばらく進むと木々の間に、長い石突きをのばした薄茶色の傘がスクッと立っているのが見えました。注意深くあたりを見回すと、少し離れた地面にもスクッ。

私たちが見つけた"ベドリャ"という種類のキノコは背の高さが10~40cmくらいまで伸びるので、生えていれば見つけるのは楽です。傘の部分をフライにするととても美味!

しかし、さらに美味しいキノコ"ドゥバキィ"や"スホー・フゥリビィ"は、背が低くしかも傘が赤茶色なので、同系色の落ち葉の中、簡単には目につきません。キノコ狩りに行き始めて最初のころ、私はほとんど見つけられませんでした(今でも探すの下手ですが......)。私よりずっと年下の七海子の従兄弟たちが「あ、あった!」「そこっ、そこにあるのにー」と嬉々として森の中を走り回り、落ち葉の上にしゃがみ込むのに、私にはさっぱり見えない。しかも地面の上ばかりに気をとられて歩いていると、皆とはぐれてしまいそうで恐ろしくもあるのです。実際、ハッと気つくと近くにいたはずのペテルが、木々の間ずっとむこうに小さく見えた、なんてことが何度もあります。

しかし、見つけた時の感激。それがたった1本の小さな"ドゥバキィ"であっても至福の気持ちになるのです。落ち葉の間に立っている、まぁるい傘。栗色のその表面はなめらかなバックスキンのようです。同系色で見つけ難いと言いつつも、実は落ち葉とはまったく違う光沢なのです。

紅テングダケを初めて見たときは、思わず「冗談でしょう?」とつぶやいてしまいました。絵本によく登場するあのキノコが、森の中に、まるでガーデンエクステリアの陶器の小人のように赤い色をテラテラさせながら立っていたら、誰だってそう言いたくなるはずです。おまけに輪を描いて並んで生えていることが多く、今にもリズムに合わせて頭を揺らし「マイムマイム」を踊りだしそうです。このユニークなキノコが物語によく登場するのは当然だとあらためて感心してしまいました。

森や林の中には他にも様々な種類のキノコがたくさん生えています。中には食べると死に至る猛毒キノコもあります。私の知るかぎりスロヴァキアでは、どの家庭にも1冊はキノコ図鑑があり、誰もがある程度の知識を持っています。ほとんどの人が食べられるキノコを最低2~3種類は知っていて、実際キノコ狩りで収穫し、家で調理、食した経験があるということです。

キノコは傷みやすいので、キノコ狩りから帰ってくると休憩もそこそこ、料理や保存食作りを始めます。痛み出した部分やナメクジの齧った部分は切り落とします。真ん中からタテ割りにして、中に虫の幼虫がいないかチェックし、虫食いなら丸ごと捨ててしまいます。東京の生活でパックに入ったきれいな栽培キノコが当たり前だった私には、すべてが新鮮な驚きでした。

"ドゥバキィ"や"スホー・フリビィ"は薄切りにし干しキノコ、またはさいの目に切って軽く茹でて冷凍に。酢漬けキノコの瓶詰めもとても美味しいですが、私はまだ作ったことはありません。"ベドリャ"にはいい保存方法がないので、パン粉をつけてフライにしたり、油で炒めたり。自分で採ったキノコのフライは格別な味です。

干しキノコを水で戻し、酢キャベツと煮込んだ酸っぱいクリームスープは、スロヴァキアのクリスマスイヴのディナーには欠かせない一品になります。

ブナ林の木々から葉っぱがすっかり落ちるころ、クリスマスが待ち遠しい季節の始まりです。

お父さん、まってぇ~
お父さん、まってぇ~。

今日の収穫
今日の収穫。籠二杯分もとれました。満足!

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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