降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第13回 過ぎてしまったことなのだけれど...

雪
この冬は11月はじめに初雪が降り、その後も何度か降っています。冬らしい冬になると嬉しいのですが。

かまくら作り
七海子、お父さんとかまくらを作ってます。

完成!
かまくら、完成!

灯をともす
灯をともしました。

暖かいロウソクの光
ロウソクの光って暖かいです。

2006年から始まったこのエッセイも連載2年目に入りました。1年間読み続けてくださってどうもありがとう。これからもどうぞよろしくお願いします。
ところで1年間「です。ます。」調で書いてきましたが、どうもしっくりしません。試しに2年目は文体を変えて書いてみます。 さぁ、どうなるでしょうか......?
前の方がよかったとか何か感想ありましたら、「えほん大好き」サイト気付でお便りください。

降矢奈々拝

11月はユーウツな月だ。特に今年は、今描いている絵本の原画制作が思うように進まず、気分は井戸の底のよう......。

10月末にヨーロッパでは冬時間が始まり、時計の針が1時間遅らされた。たった1時間の差なのに、日没が急に早くなったような気になる。事実、それまで夕方6時近くまで明るかったのに、冬時間が始まった翌日からは5時には外は真っ暗。

夏時間・冬時間なんて人間が勝手に決めたことで、そんなことどこ吹く風と地球は自分のペースで回転しているだけなのに、私には冬時間以降、毎夕の暗闇が3段飛びで空を塗り込んでいくように感じられる。自分は何と「時計」に縛られているのだろう。

ちなみに、スロヴァキアの産院で私が七海子を産んだのが10月末。入院中に冬時間になり、3時間おきの授乳時間も1時間遅れで始まった。生まれたばかりの赤ん坊に「おっぱい、もう1時間待ってね」は、けっこう厳しい。

子どもたちが風邪をひきやすいのもこの時期。朝夕と日中の気温の差がはげしかったり、天候が変わりやすかったり。学校に送りだす子どもに何を着せたらいいのかが、毎朝の悩みだ。

先週熱を出した七海子の咳がしつこく続いている。コンッ、コンッ、という娘の咳が聞こえるたびに、私はいつも自分の胸が縮み上がるようで痛くなる。仕事に集中できなくて自暴自棄になりそう。風邪ひきの娘よりも仕事の心配ばかりしている自分に、さらに落ち込んでしまう。こんな時、私にも「奥さん」がいて娘の世話を安心してまかせられたらどんなに気が楽だろう、と在らぬ妄想をしてしまう。情けない。

去年の11月は、実家の母の手伝いで3週間ほど一時帰国をしていた。日本滞在中、スロヴァキアに残してきたペテルや七海子に度々国際電話をして近況を確認した。いつも「大丈夫、大丈夫」という返事。しかし帰国日が近づくにつれて、電話口の七海子の歯切れが悪くなった。それは、ほんとうにささやかな言い回しの変化だったのだけど......。

スロヴァキアに帰って数日後、理由が分かった。私のいない間に、ペテルが交通事故を起していたのだ。その時、後部座席には学童帰りの七海子が乗っていた。日本にいる私に心配かけまいと、彼らは電話では事故のことを話さないと約束していたそうだ。

夕方4時過ぎのうす暗くなった三叉路。しかも小雨が降り、視界が悪かった。ペテルが進もうとしていた道の対向車線には右折を待つ車が何台か並び、その列は横断歩道の上にかかっていた。彼の車がその道に向かってハンドルを切ったその時、並んだ車の陰から、横断歩道を渡る女性が歩き出てきたのだという。

ペテルはあわててブレーキを踏んだが、濡れたアスファルトの上を車はスリップして、車から必死で逃れようと走る女性の背中にどんどんどんどん近づき接触した。幸い、道路わきの花壇に倒れ込んだ女性は、足に軽い打撲を負っただけですみ、翌日も普通に出勤できたそうだ。彼女の理解もあり事故は大事にならず、私たちは七海子の楽しみにしていたクリスマスを祝える心境にもなれた。

しかし、それは私が帰ってきてからのこと。初めての交通事故、しかも怪我人が出た。ペテルにとってもショックな経験であったが、私のいない家で、事故後の手続きに追われナーバスになったお父さんと一対一で顔を合わせていた七海子にも、とても辛い日々だったろう。

帰ってきた私に、七海子は自分から何も言わなかった。事情が分かり、こちらから水を向けて、ポツン、ポツンと話してくれた。お父さんのことを守りたかったようだ。

今年、いつものように天候のすぐれない11月を、私はスロヴァキアでペテルや七海子と共に過ごしている。夕刻の暗闇様もホップ、ステップの絶好調で墨の大ハケを振り回している。

ペテルも私も車で夕刻の三叉路を通り過ぎるたびに、去年のことを思い出す。私は、こんな不安定な季節に夫や娘を残して日本へ行ってしまったことを何度も悔やんでしまう。もう過ぎてしまった事なのだけれど......。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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