降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第15回 プラハの木製あやつり人形

メフィスト
プラハからやってきたメフィストです。

迫力ある顔
迫力ある顔でしょう。襟飾りもついてなかなかオシャレです。

木製のあやつり人形
一本の金棒が、頭と体を支えています。

バイアンちゃん
パイアンちゃん。七海子が生まれた時、作家のわたりむつこさんが贈ってくださいました。

野外演劇フェスティバル
プラハの野外演劇フェスティバルで観た、二人芝居。ドン・キホーテ(左)とサンチョ(右)です。

ドン・キホーテ
死にぞこないのドン・キホーテが棺桶からでてきて、ろばのロシナンテに乗っているところ。ロシナンテはがらくたと一輪車でできています。

「えほん大好き」の読者のみなさまへ。

お休みしていたエッセイを再開します。長いことご迷惑おかけしてごめんなさい。これからはなるべく休まないよう、楽しいお便りをお届けしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

「プラハの木製あやつり人形」

戯曲「ファウスト」に登場するメフィストが我が家の居間にやってきた。身長78cm、大きな木製の糸あやつり人形のメフィストだ。ロンパリ気味の大きな目に、熟れたパプリカのようなオレンジ色の鼻。おまけに口から舌をべろりとたらしている。この夏、日本からやってきた母と一緒に出かけたプラハの街で見つけたのだ。

プラハへはブラチスラヴァから列車やバスで5時間という近さだ。留学前に一週間ほど観光滞在したことがあるが、それ以降は用事がらみの短期訪問ばかり。今回は久しぶりにゆっくりプラハの街を歩くことができた。

旧市街広場に面するティーン教会の裏手に、カフェやお店が並んだ裏庭のような空間がある。そこで、高さ2mくらいある木彫人形を店頭にかざっているお店を見つけた。

中を覗いてため息が出た。天井や壁から何体もの木製あやつり人形が吊り下げられていたから。あるものは不気味に笑いながら、あるものは遠くをじっと見つめながら。かまを振りかざしたガイコツ。笛を手にしている男はハメルンの笛ふきだろうか。のみで潔く削られた鼻や足が美しかった。

長いこと私は、木製の不気味なあやつり人形(チェコを代表するアニメ作家のひとり、ヤン・シュワンクマイエルの作品に登場するような)が欲しいと願っていた。スロヴァキア生活の間、それらしいお店やアンティーク店を何度も覗いてみたが、見つけられるのは、いかにもお土産物という安っぽい人形ばかりだった。それが、久しぶりのプラハ観光で、いとも簡単にそんなお店に出会ってしまった。15年前までチェコとスロヴァキアは一つの国で、チェコスロヴァキア共和国と呼ばれていた。しかし2つの国の文化レベルの差は歴然だ。こういう機会にいつも痛感する。

お店に並ぶ人形は、どれも作家の一点ものだそうだ。プラハ国立人形劇場で人形制作している人の作品もあった。最近は、人形作家をめざしプラハへ移り住んだ日本人の作品もお店に並びはじめたそうだ。

高校生のころ、私はひそかに「人形遣い」にあこがれていた。
音楽や話術、パフォーマンスで誰かを楽しませることができたら......どんなに素敵だろう。しかし悲しいかな、私は人前で何かするのが大の苦手なのだ。時々引き受ける講演会でも、始まる前はプレッシャーに、終わった後は自己嫌悪に、いつも押しつぶされそうな気持ちになる。  人形遣いだったら、私自身は裏方に徹していられる。人形が私の代わりに、私の願望をかなえてくれるだろう。

たわいない想いではあるが、確かに人形には不思議な力がある。七海子が2~3歳のころ、私はよくぬいぐるみのクマを片手に即興人形劇を演じてみせた。娘はパイアンちゃんと名付けたクマとの会話に高らかに笑い転げ(子どもだけができる、何の曇りのない純粋な笑い!)、私の言うことは聞かなくても、パイアンちゃんのお願いには、素直に「いいよ」と答えるのだった。
人形を媒介に、私は娘と空想の世界を楽々と遊ぶことができた。

今の私は人形遣いにはなれなかったけれど、なりたかった「裏方の仕事」についている。絵本の絵を描いて読者を喜ばせること。お話の主人公を描くことは、人形劇の舞台で人形をあやつり、観客を別の世界にみちびくことと同じだと思うのだ。

後日、我が家に遊びにきた友人(日本人)の子どもたちに、メフィストを動かして見せたところ、1歳になったばかりの女の子は凍りつき、泣き出してしまった。4歳の男の子(ゲゲゲの鬼太郎大好き)は、怖がっていないふりをしながらも体だけはひたすらあとずさり、あとずさり...お母さんの体をよじ登り、とうとうお母さんはソファーの上にひっくり返ってしまった。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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