降矢ななのスロヴァキア通信

中央ヨーロッパの小国、スロヴァキア共和国在住の絵本作家・降矢なな、初の月刊エッセイです。‘92年に同国のブラチスラヴァ美術大学へ留学して以来、紆余曲折を経て(笑)、現在はペジノックというワインの産地の街に、スロヴァキア人で画家の夫と7歳の娘と共に暮らしています。スロヴァキアからの便りをどうぞお楽しみください。

第19回 暖炉

朝の風景
マイナス14℃の朝の風景です。

薪小屋
薪小屋に積み上げられた薪。この約3倍の量がたくわえられてあります。

暖炉
ペテル・デザインの暖炉。冬場に友だち達と暖炉にあたりながらペジノク産ワインを飲むんですよ。贅沢でしょう。私はお酒に弱いからお茶ばっかり飲んでますけど。ひとつ欲を言えば、これで煮炊きができたら便利だっただろうな、と。薪の火でコトコト煮込んだスープは美味しいでしょうね。

暖炉に火をたきつける
暖炉に火をたきつける七海子。子どもの頃から火に慣れて、上手にあつかえるようになって欲しいです。火が危ないことも知って欲しいし。

猫たち
寒くても元気な我が家の猫たち。雪の中に立っているのがたまちゃん。梨の木に登っているのが黒ちゃん。黒ちゃんの姿、まるで黒猫ミケシュみたいでしょう。そういえば、ミケシュの住む村は「梨の木村」でした。

ウサギ
毎朝、ウサギにえさをやりに行く時、いつも猫たちが私を先導するように歩いて行くのです。私がえさをやっている間、小屋の網ごしにじっとウサギたちを見ています。えさやりが終わって、私が小屋から出ると、猫たちはまた私を先導して家まで戻ります。自分たちも一仕事したと思っているのかな。

黒ちゃんの影
雪の上にできた黒ちゃんの影。きれいです。

仔ウサギが
こんな厳冬に、仔ウサギが生まれたんですよ。6匹も!。寒さに負けず、元気に育ってくれますように。

庭の足跡
庭に積もった雪の上。人間と猫の足あとが入り乱れてます。

2010年はじめてのエッセイです。
少し遅くなってしまいましたが、本年も「スロヴァキア通信」をどうぞよろしくお願いいたします。

クリスマスと大晦日は生ぬるい空気だった。元旦深夜零時の庭で花火大会をしていた時も、今年は体の心まで凍えることはなかった。地球温暖化だ、スキーやスケートができなくなるぞとステレオタイプに話していたら、1月半ばにいきなり大寒波がやってきた。毎朝7時ごろ、台所の窓の外にさげた寒暖計をチェックするのだが、水銀のてっぺんが毎朝すこしずつ下がっていく。マイナス6℃、マイナス9℃・・・・・そして今朝はマイナス14℃だった。天気は快晴。旭の輝く中、各家々の煙突から白い煙がまっすぐ立ちのぼっているのが見えた。

私の住む地域の一戸建ては、暖房設備として、ガスボイラーによる集中温水暖房と薪ストーヴ(または暖炉)の両方をそなえた家が多い。
この数年スロヴァキアでは、ロシア、ウクライナガス紛争のあおりを受け、天然ガス供給が、冬場の数日間ストップする問題がおこった。スロヴァキアは、国内で使用されるガスエネルギーのほぼ100%を、ロシアからの天然ガスでまかなっている。ロシアの国営ガス会社・ガスプロムの欧州向けパイプラインの1本は、ウクライナ経由でスロヴァキアを通り、ドイツやオーストリアへ送られる。ウクライナにガスが送られなければ、当然スロヴァキアにも届かない。スロヴァキアのガス供給生命線は、このパイプライン1本なのだ。(現在、少しずつだが他方面からの供給ルートも開発されつつある。)

この問題以来、このあたりでは個人ができるエネルギー対策として、薪を真剣に確保する家が増えはじめたようだ。我が家の庭にも薪小屋があり、たくさんの薪が木目をこちらに向けて積み上げられている。1立方メートル幾らの単位で買う。丸太を1本買い自宅で薪にすると安上がりだが、薪作りは大仕事だ。大きな円盤型の歯がついた電動のこぎりを持っている家も少なくない。

東京育ちの私には、自宅に暖炉を持つなんて、怪人20面相に出てくる世田谷の洋館くらい贅沢なことだと思っていた。スロヴァキアでは、それは特別なものではなく、数年前にペジノクで買った中古の家にも、暖炉は付いていた。その暖炉は使い手も見栄えも良くなかったので、基礎はそのままに、ペテルが自分でデザインして、タイル貼りやら漆喰塗りもして、カーブの美しいものに作り変えてくれた。

焚き口のガラスの戸を開けて、焚きつけ用に丸めた紙と細く割った薪を数本置く。その上に薪を1本のせたら準備完了だ。マッチの火が紙に燃え移り、木片にからまって勢いを増し、太い薪の上でも炎が自立しはじめるとホッとする。焚きつけ作業は何度やってもいつも真剣になってしまう。うまく燃え移らない時は、炎はゆれながら段々ちぢんでゆき、あるところまでいくと突然ポンッと消えてしまう。こちらも意気消沈。反対に、灰の中に残った小さな燃えかすに息を吹きかけ、誘導して、炎を生き返らせた時は、何だか自分が誇らしくなってしまう。

安房直子さんの作品に"ひぐれのお客"という短編がある。冬のはじめの日暮れ時、まっ黒いマントをきた黒猫が一匹、手芸屋に布を買いにくる話である。その中で、猫が薪ストーブの火のことをこう語っている。
「ただ、あったかいだけじゃなくて、こう、心がやすまって、いつのまにか、ふうとねむくなってゆくようなかんじです。」
暖炉に燃える薪の炎もまさにこういう感じだ。薪の上にゆれる炎や赤く光っている木炭をながめていると、魅惑されまぶたが重くなってくる。

"ひぐれのお客"の黒猫は「ことしの冬がとくべつさむい」と聞いて、自分のマントに付ける裏地布を買いにきたという。とくべつ寒がりなのだそうだ。
ところがどっこい、我が家の黒猫は、マントも被らず雪の中を走り回っている。マイナス14℃だというのに、雪の上で身もだえし「なでてよ、なでてよ」と甘えてくる。雪の日に庭駆け回るのって、犬の役ではなかったけ?。

私は猫アレルギー体質なので、我が家では室内で猫を飼うことはできない。娘には、ずっと「猫は飼えない」と言い聞かせてきたのだが、一昨年の夏、我が庭に腹ペコ仔猫が迷い込んできて、仕方なく飼いはじめた。外で飼うことを条件に。

冬の厳しいスロヴァキアで、うちのキジ猫・たまちゃんが無事越冬できるか心配だったが、冬毛の下にたっぷり皮下脂肪をたくわえコロコロ太ったたまちゃんは、バルコニーの片隅に置かれた猫小屋に寝泊りして、初めての冬をたくましく乗り切った。今年の冬は、昨年の秋から加わった黒猫・くろちゃん(芸のない名前ですみません・・・・・)といっしょに猫小屋暮らしをしている。

たまちゃんは、マイナス20℃近くなる真夜中の庭で、このあたりのボス猫と毎晩のようになわばり争いの一騎打ちをくりひろげている。ここまでしてくれるともう尊敬してしまう。
東京育ちの私もスロヴァキアの猫たちのようにたくましく生きなければ、と思いつつ・・・・・、

ゆきや こんこん あられや こんこん・・・・・
ねこは いくさで にわかけまわり
われは だんろで まるくなる


【お知らせ】

2月14日(日)~3月14日(日) 名古屋の子どもの本専門店"メルヘンハウス"にて「いそっぷのおはなし」の原画 展が開かれます。 お近くの皆様、どうぞ見に行ってみてください。 詳しいことは、メルヘンハウスのHPをご覧下さい。

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降矢なな(NANA FURIYA)

1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な絵本に「めっきらもっきらどおんどん」「ちょろりんのすてきなセーター」「ちょろりんととっけー」「きょだいなきょだいな」「おっきょちゃんとかっぱ」「あいうえおうた」「ねえ、どっちがすき?」「まゆとおに」「まゆとりゅう」(以上福音館書店)、「赤いくつ」(女子パウロ会)、「おれたち ともだち!」シリーズ…9月に最新刊「きになるともだち」刊行(偕成社)、など多数。

降矢なな作品コレクション

  • ともだちおまじない
    『ともだちおまじない』
    文/内田 麟太郎
    絵/降矢 なな
    1,260円(偕成社)
  • めっきらもっきらどおんどん
    『めっきらもっきらどおんどん』
    作/長谷川摂子
    画/ふりやなな
    840円(福音館書店)
  • ともだちや
    『ともだちや』
    作/内田麟太郎
    画/降矢なな
    1,050円(偕成社)

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