文字・活字メディアが健全に機能するために


一般財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)

理事長  肥田美代子


 令和三年の新春を迎え、心よりお慶び申し上げます。
 本年が皆様にとりまして、実り多き一年となりますよう、心より祈念いたします。
 今年は、間もなく、アメリカに新大統領と初の女性副大統領が誕生します。これまでの4年間の〝アメリカ・ファースト″から大きく舵を切った、「リベラル」「国際協調」を重視した政策に期待が寄せられています。夏には延期となった東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定。そして、遅くとも秋までには総選挙が行われ、7年8か月にも及んだ安倍政権とそれを継承した菅政権に国民の評価が下されます。
 そのどれもが、新型コロナウイルスの感染状況に大きな影響を受けることは避けられません。
 昨年は、新型コロナウイルスが年初から猛威を振るい、春にはパンデミックとなり、世界中が混乱に陥りました。経済は未曽有の落ち込みとなり、人々の生活様式や考え方も大きく変えざるをえませんでした。
 世界的には、「外出禁止」「ロックダウン」などという強い政策手段により、感染拡大の抑え込みを目指す国も多くありましたが、欧米やアフリカでは成功したとは言えない状況が続いています。日本は、多くの期間を「自粛のお願い」という一見ゆるい対応ながら、春から秋口にかけては、感染者数からは低く抑え込んだかに見えました。しかし、11月に入ると、それまでよりはるかに大きい第三波を迎え、年末年始に突入してしまいました。
 医療・介護関係者への負担は重くのしかかり、一方で、飲食・観光業界をはじめとする経済各界への大きな打撃が長引き、「どちらを優先させるのだ」をめぐって国論が二分されました。論が尽くされるならば、それは民主主義の一環として是とされますが、違う意見を罵ったり、「自粛警察」「自警団」などという力によって、自らの考えや意見を通そうとする一部の動きには、強く警戒しなければなりません。同様に、ネット上には、様々な思惑を持つ個人・団体から発せられるフェイクニュースやヘイトスピーチもあふれています。玉石混淆の膨大な情報から、真実や信じるに値するものを取捨選択できるリテラシーが、ますます必要とされる世の中になっています。
 そのような社会で、出版・新聞をはじめとする言論メディアは、人々の考え方や意見の基となる情報を、正しく広く社会に提供するという、重大な責務を担っています。これらは、取材・執筆・編集・ファクトチェックなど複数の人間の知性と良識による精査を経て読者、市民に提供されるため、ユーザーには、ネット情報より格段に高い信頼が寄せられています。
 この意味でも、スピードや量で利便性を発揮しているネットと、掲載にあたって相応のチェックを経ている文字・活字メディアは、民主主義を支える両輪として、今後も共存し、役割分担をしていかなければなりません。

<設立30年を迎えて>
 JPICは1991年に出版業界の横断的な非営利団体として設立され、本年3月27日には設立30周年を迎えます。これまでのご厚情に対し、改めて感謝申し上げます。
 JPICは、設立以来、読書推進活動の展開や出版・読書に関する学びの機会創造、出版業界共通のインフラとして各種事業を展開し、出版業界・読書推進関連団体として、その活動を拡充してまいりました。
 例年、年間数十回に及ぶ読書関連講座・イベントを、全国各地で開催していましたが、コロナ禍に見舞われた昨年は、2月中旬から9月下旬まで、すべてのリアルイベントを延期ないしは中止とせざるをえませんでした。
 そのようななか、6月よりONLINEイベントをスタートさせ、9月以降は、毎週複数のプログラムを開催するまでになりました。
 ONLINEイベントには、運営側にとっては、会場手配・運営スタッフの多数配備・開催地域での集客などの負担が軽減され、参加者にとっても、時間・場所の制約が格段に下がるという、大きなメリットがあります。出演者は大阪や札幌、参加者は海外・全国から、スタッフは東京の事務所という会も度々あります。
 そんなメリットを大いに活かした「JPIC ONLINE」は想定以上の支持を得て、JPIC事業の一つの柱になりうる手応えを得る一方で、やはり「参加者が、楽しみや学びの空間を共有する」ことの重要性も強く再認識しています。今後は、リアルとONLINEそれぞれの長所を生かしつつ事業を展開してまいりたいと考えています。

<JPICも新たな役割を>
 コロナ禍の出版業界に目を転じれば、「小中高の一斉休校」による学参書の需要急増、「外出自粛」による読書時間の増、コミック「鬼滅の刃」の大ヒットなどが重なり、長く続いた市場の縮小傾向はひと息ついたようです。
 出版社全般としては、厳しい状況は変わりませんが、大手出版社は、コンテンツのデジタル化、多様化で新たなビジネスモデルを創造し、好収益を上げています。他方、出版流通の現場は、雑誌の不調、人手不足、輸送コストの増大などで疲弊しきっているのが現実です。
 「物流」をベースとする書店・取次会社は、その課題解決策を見出すために努力している最中であり、今年は、出版業界全体が新たな一歩を踏み出す年としなければなりません。
 繰り返しになりますが、健全な民主主義の前提となる「出版の自由」「言論の自由」が保証されるためには、それを支える出版・新聞といった文字・活字メディアが健全に機能していなければなりません。それは、出版社・新聞社の安定経営のみならず、出版物や新聞を読者に届ける書店・取次会社・新聞販売店など物流を担う企業の経営も安定していることが不可欠ということでもあります。
 この厳しい環境下を脱するためには、個別企業の努力に加え、業界団体には、立法府や行政府との窓口・調整役、業界全般が共有出来るインフラの提供、業界内外にわたる調査・研究などの役割が求められます。
 JPICも少なからず、そうした流れの一翼を担えるよう努力してまいります。

 末文となりましたが、今年も一年、読者や出版業界の皆様とともに、出版・読書活動の可能性を切り拓ける事業に取り組めますよう、いっそうのご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

以上

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